再始動NOx排出抑制材料 (SRR-MIX※)
アイドリングストップ後の再始動時に排出される窒素酸化物(NOx)を抑制するため、NOx浄化反応の促進を狙い、ロジウム(Rh)の担体である複合ジルコニウム(Zr)酸化物の組成探索を行いました。その結果を基に、水蒸気改質反応を促進する再始動NOx排出抑制材料(SRR-MIX)の開発を進めています。 ※SRR-MIX:Steam Reforming Reaction - Mix - Material の略
実路走行排気(RDE※)における
排出ガス低減
次期規制である欧州「ポストEuro6」、「Euro7」では、地球温暖化問題への対応として二酸化炭素(CO2)の排出量低減につながる燃費規制の強化が進められると同時に、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)や PM(ススなどのミクロン単位の固体や液体の微小粒子物質)などについても、これまで以上に厳しく規制するといわれています。
RDE(Real Driving Emission / 実路走行排出ガス)
欧州では、2017年9月から、実際の路上走行時に排出される有害ガス低減を目的としたRDE規制が導入されています。
- 出典:Worldwide Emission Standards @DELPHI
欧州委員会資料
PN(Particulate Number / パーティキュレート・ナンバー)規制
非常に細かいPMの数を数えて基準値以内に抑えるもの。これまでは、フィルターに付着したPMの重さが基準値以内であることが求められていました。一方、粒子の排出量を重さではなく個数で測るのがPN規制です。
CF:Conformity Factor(適合係数)
RDEによる上限値=規制値@台上試験×CF
すなわち、CFが小さいほど排出ガス低減要求が厳しくなります。
エンジンから排気されるガスの雰囲気(※)は、各地域における自動車の使われ方によって変わります。例えば、渋滞等などにより加減速が多い道路と、アウトバーンなどの高速道路では、排出ガスの雰囲気や温度、流速が異なります。次期規制では、そのような実環境下(RDE)での排出ガス低減が強く求められています。
※エンジンから排気されるガスの雰囲気とは
燃料と空気の比率(空燃比)の事を指します。
空燃比を見たときに、燃料が薄い状態のことを酸化雰囲気【 lean(リーン)】、燃料が濃い状態のことを還元雰囲気【 rich(リッチ)】といいます。エンジンからの排気ガスの雰囲気は、車の運転シーンにより、空燃比が lean(リーン)から rich(リッチ)まで目まぐるしく変化します。
自動車用排出ガス浄化触媒に
求められていること
高温の環境化でも安定した浄化反応ができること
自動車用排出ガス浄化触媒は簡単に説明すれば高耐熱の材料に貴金属をつけたものです。
触媒では、自動車のエンジンから排気されるガス中に含まれる有害ガス(一酸化炭素/CO、炭化水素/HC、窒素酸化物/NOx)を、貴金属が酸化・還元して浄化しています。COとHCの浄化は酸化反応、NOxの浄化は還元反応によって行われており、1,000℃を超える高温環境であっても、安定して浄化反応が進むよう設計しなくてはなりません。
アイドリングストップに適した触媒開発
自動車用排出ガス浄化触媒の開発は、排出ガスの雰囲気によって方向性が異なります。排出ガスの雰囲気はエンジン制御に依存しているため、エンジンが変われば最適な触媒も変わってしまいます。特に、近年普及しているアイドリングストップ車は、これまでの自動車とはエンジン制御が大きく変わっているため、アイドリングストップに適した触媒の開発が求められています。また、環境保全や枯渇資源の使用量低減という背景から、排出ガス規制値は年々厳しくなる一方で、貴金属の使用量低減も求められています。
自動車触媒の中身は?
自動車用排出ガス浄化触媒の中身を大きく2つに分けると、有毒ガスの浄化を行うポイントになる貴金属(白金/Pt、パラジウム/Pd、ロジウム/Rh)と、貴金属の足場になる材料(担体)があります。担体は、ジルコニウム(Zr)や、セリウム(Ce)などの複合酸化物からできており、耐熱性を上げたり、貴金属のアグリゲーション(凝集)を抑制したりする目的に合った副成分が添加されています。
従来自動車と
アイドリングストップ車の
排出ガスの違い
- 従来の自動車は、一度エンジンをかけるとアクセルペダルを踏まなくてもエンジンは動いたままです。この状態をアイドリングと言い、少しずつガソリンを消費しています。一方、近年普及が進んでいるアイドリングストップ車は、赤信号などで一定時間止まるとエンジンも停止し、再び走行するためにアクセルを踏むとエンジンが再始動します。アイドリングストップ車では、この再始動時に窒素酸化物(NOx)を排出してしまう恐れがあります。
従来車と低燃費車の
エンジン制御とNOx排出挙動
アイドリングストップ車の
再始動時に
NOxが排出される理由
アイドリングストップ車の再始動時に窒素酸化物(NOx)が排出されてしまうのは、エンジン制御の違いによって触媒に流れ込む排気ガスの雰囲気が変わるためです。従来車の場合、信号待ちの間、エンジンはアイドリング状態(いつでも動き出せる状態)であるため、排気システム内のガスの雰囲気は保たれ、触媒内の貴金属は活性状態を保つことができます。しかし、アイドリングストップ車は信号待ちの間、エンジンが停止しているため、空気(外気)が流れ込み、貴金属が不活性な酸化物になってしまいます。この状態のままエンジンが再始動すると、エンジンからの排出ガスを浄化ができず、NOxの排出が起こってしまいます。
再始動NOx排出の原理
担持する貴金属の
劣化抑制ではなく、
担体の性質を変える開発
自動車触媒に使われている材料(担体)は、ジルコニウム(Zr)酸化物に酸化セリウム(CeO2)や 酸化ランタン(La2O3)などの元素が添加されています。担体に貴金属を担持(付着)して有毒ガスの浄化を行っていますが、担体の組成によって貴金属の性質が変わってきます。従来の触媒開発は、貴金属の劣化抑制というコンセプトを中心に進められていました。例えば、Zr酸化物に耐熱性が向上するような元素を添加し、足場を安定化させることで貴金属の劣化を防ぐことが目的です。キャタラーでは、貴金属の劣化抑制ではなく、足場である担体の性質を変えることで触媒の浄化性能を向上させられないか?という視点から開発を行っています。
従来の触媒開発は、貴金属の劣化抑制というコンセプトを中心に進められていました。例えば、Zr酸化物に耐熱性が向上するような元素を添加し、足場を安定化させることで貴金属の劣化を防ぐことが目的でした。
キャタラーでは、貴金属の劣化抑制ではなく、足場である担体の性質を変えることで触媒の浄化性能を向上させられないか?という視点から開発をおこないました。
再始動NOx排出抑制材料(SRR-MIX)の開発史
-触媒内は有毒ガス浄化以外の化学反応も起こる-
NOx還元剤をつくれないか?
窒素酸化物(NOx)を浄化するには、NOxを還元する還元剤が必要になります。
しかし、アイドリングストップ中の触媒は酸化雰囲気になっているため、エンジンの再始動後すぐに排気ガスが流入しても触媒による浄化は間に合いません。そこで、「NOxを浄化するのと同時に、NOxを還元する還元剤をつくりだせないか」と考え、開発に取り組みました。
水蒸気改質を添加物に!
ICE(内燃機関)の排気に含まれるNOxの浄化は、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)による還元反応と、水素(H2)による還元反応によって起こっています。私たちは、最も還元力の高いH2に着目し、H2を生成する反応を促進できる添加元素はないかと考えました。
素反応(※)の比較
様々な元素添加により促進される素反応を比較し、目的の効果を得られる元素を見出して担体(材料)に添加。その材料を使用した触媒で車両評価を行いました。
※素反応とは、化学反応を構成する個々の基本的な反応のことです。
再始動NOx排出抑制材料
(SRR-MIX)の特徴
従来の触媒と再始動NOx排出抑制材料(SRR-MIX)を使用した触媒を車両評価で比較した結果、SRR-MIXを使った触媒は、アイドリングストップ後の再始動時に排出する窒素酸化物(NOx)を抑制できることがわかりました。(左グラフ) また、トータルNOx排出量も35%低減できました。(右グラフ) 排出ガス規制は、世界各国でこれまで以上に厳しくなっていくと予想されます。さらにハイブリッド車(HEV)や、ガソリンと電気を組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)などの普及が見込まれます。
今後、自動車用排出ガス浄化触媒が置かれる環境が大きく変わることが想定される中で、これまで培った技術をもとに新しい材料を開発し続ける必要があります。今後はSRR-MIXをさらに詳細に解析し、その分析結果を応用した新しい材料開発につなげていきます。
- 車両評価時の再始動NOx排出挙動
- トータルNOx排出量の比較
従来の触媒と再始動NOx排出抑制材料(SRR-MIX)を使用した触媒を車両評価で比較した結果、SRR-MIXを使った触媒は、アイドリングストップ後の再始動時に排出する窒素酸化物(NOx)を抑制できることがわかりました。
- 車両評価時の再始動NOx排出挙動
また、トータルNOx排出量も35%低減できました。
- トータルNOx排出量の比較
排出ガス規制は、世界各国でこれまで以上に厳しくなっていくと予想されます。さらにハイブリッド車(HEV)や、ガソリンと電気を組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)などの普及が見込まれます。
今後、自動車用排出ガス浄化触媒が置かれる環境が大きく変わることが想定される中で、これまで培った技術をもとに新しい材料を開発し続ける必要があります。今後はSRR-MIXをさらに詳細に解析し、その分析結果を応用した新しい材料開発につなげていきます。