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触媒とは
日常生活の多くの場面で、重要な役割を担っている「触媒」。化学分野では、化学反応において反応物よりも少量で、それ自身は変化せず、化学反応を促進する物質のことを「触媒」と言います。
触媒技術の応用分野
触媒技術が「私たちの生活にどう役立っているのか?」イメージがわかない方もいるのではないでしょうか?衣類や靴、容器、袋、建材など、身の回りのありとあらゆる化学製品の原料の生産には触媒が使用されています。工場や自動車の排出ガスを浄化して、酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)や、硫黄酸化物(SOx)を除去するのも触媒です。その他、医薬品や食品、肥料や農薬なども触媒を用いて合成されています。
触媒の技術が使われている代表的な分野
横にスワイプ→で表をご覧いただけます。
分野 | 用途(例) | 用いられる触媒(例) |
---|---|---|
資源・エネルギー | 原油処理 | 水素化脱硫触媒 |
石油製品の精製 | 接触改質触媒 | |
石油化学原料、ガソリン、灯油、軽油の精製 | 流動接触分解 (Fluid Catalytic Cracking)触媒 |
|
重油 | 重油脱硫触媒 | |
固体である石炭を気体に転換 | 石炭ガス化触媒 | |
燃料電池などのエネルギー源(水素)の精製 (アンモニア分子の分解による水素の発生) |
アンモニア合成触媒 | |
人工光合成のプロセスとして (水の電気分解による水素の発生) |
マンガン触媒 | |
燃料電池電気自動車(FCEV)用燃料電池の性能と耐久性向上 | 電極触媒 | |
環境・民生(家庭用) | 窒素酸化物(NOx)の除去 | NOx吸蔵還元触媒 |
硫黄酸化物(SOx)の除去 | 脱硫触媒 | |
煤(すす)の除去 | PM燃焼触媒 | |
脱臭 | 脱臭触媒 | |
VOC(※)の除去 | VOC分解触媒 | |
空気浄化 | 光触媒 | |
バイオマス(※)のガス化 (バイオマス由来化合物を有用化合物に変換) |
バイオマス変換触媒 |
※VOC(揮発性有機化合物)
常温常圧で大気中に気体で存在する有機化合物のうち沸点が50℃~260℃の物質の総称。(塗料や印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるトルエン、キシレン、酢酸エチルなど)
※バイオマス
動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源のこと。(木材、海草、生ゴミ、紙、動物の死骸・ふん尿、プランクトンなど)
触媒の働き方
触媒は、「均一系触媒」と「不均一系触媒」の大きく2つの種類に分けることができます。均一系触媒は、溶液などに溶けて働く触媒で、酸や塩基(酸と対になって働く物質)、金属に有機化合物が結合した錯体(※)触媒などがあります。もう一方の不均一系触媒は、固体状態のまま働く触媒で、金属酸化物や活性炭、アルミナ(アルミニウムの原料となる白色の粉末)などの担体(※)に貴金属などの活性成分を固定化させる担持(※)触媒などがあります。
※錯体(さくたい)
金属元素の周囲に何らかの物質が結合した化合物のこと。金属イオンとそれに結合した配位子の複合体を指し、金属の種類、配位子の種類によって、直線2配位構造、平面4配位構造、八面体6配位構造など、さまざまな構造をとることが知られています。
- 代表的な遷移金属錯体とその形
※担体(たんたい) / 担持(たんじ)
担体とは、他の物質を固定する土台となる物質のこと。触媒や吸着剤の担体としては、アルミナやシリカ、活性炭などがよく用いられます。担持というのは、その土台に金属などの物質を固定化させることです。
- 担持触媒の構造と役割
-
均一系触媒
均一系触媒は、多くの有機合成反応に用いられており、反応物質とともに溶けて働くことから、目的の反応のみを特異的に行う場合などに適しています。
反応物 + 触媒 → [ 反応中間体 ] → 生成物 + 触媒
反応物 + 触媒
↓
[ 反応中間体 ]
↓
生成物 + 触媒
触媒と反応物が結合して、反応中間体をつくります。この反応中間体(※)が、自ら分解したり、ほかの分子と衝突したりして、安定な生成物に変化するとともに触媒が再生され、この過程の繰り返しにより反応が進んでいきます。
※反応中間体(中間体)
一連の化学反応が連続して起こるとき、最初の反応物から最終的な生成物に至る過程で生じる物質のことをいいます。化学反応式で表示される反応は、ただ一つの素反応(1個もしくは複数の化学種が直接反応して1段階で遷移状態を通って生成物に至る化学反応)で完結されることは少なく、一連の素反応が連続して起こることによってはじめて最終生成物に至ります。従って、各素反応の結果生じる物質は、最終生成物を除いて、すべて反応中間体となります。
- 製品例(少量で複雑な構造の化学製品向き)
- ・医薬品
・農薬
・液晶の材料 など
- メリット
- ・溶液中で高い活性度をもたせることができる
- ・配位子を置換して、電子的要素や立体的要素を変えることで高い選択性をもたせることができる
- デメリット
- ・原料や生成物と同じ相で反応させるため、分離するのが難しい
- ・高温で分解されてしまう
- ・高価な触媒の再使用が困難
- 製品例(少量で複雑な構造の化学製品向き)
- ・医薬品
・農薬
・液晶の材料 など
不均一系触媒
生成物との分離回収が容易であることや、繰り返し使用が可能であること、一般に均一系触媒よりも耐久性が高いなどから、化学物質を大量に生産する工業プロセスや、内燃機関(ICE / Internal Combustion Engine)の排気ガスの浄化などに用いられています。
- メリット
- ・反応後に生成物との分離が容易である
- ・高温で機能する
- デメリット
- ・反応物が触媒内に拡散しにくい
- ・一般的に選択性が低い
- ・担持させた金属の表面部分以外は触媒活性に寄与しない
- 製品例(基礎化成品製造における実用プロセスで用いられる)
- 自動車の排出ガス浄化や、石油精製など
具体例(自動車の三元触媒)
エンジンから排気される排出ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を分解・浄化するために、白金、パラジウム、ロジウムなどを主成分とする三元触媒が不均一系触媒として使用されています。
三元触媒の化学反応
- 1. 一酸化炭素(CO) → 「二酸化炭素(CO2)」に 酸化
(CO + 12O2→CO2) - 2. 炭化水素(HC) → 「水(H2O)」と「二酸化炭素(CO2)」に 酸化
(HC + 32O2→H2O + CO2) - 3. 窒素酸化物(NOx) → 「窒素(N)」と「水(H2O)」に 還元
(2NO + 2H2→N2 + 2H2O)