Exhibition 2018
ガソリン車用触媒技術
Restart NOx emission suppression material
Exhibition 2018
最近の軽自動車やコンパクトカーなど、燃費性能を重視する車種の大半は、信号待ちの間などにエンジンが停止するアイドリングストップ機能を搭載しています。
しかし、アイドリングストップ後の再始動時に有害ガスであるNOxが排出される問題があります。
当社では、この再始動NOxの排出量低減を目的に新しい材料の開発に取り組みました。
自動車用の排出ガス浄化触媒(以下:自動車触媒)を簡単に説明すると、高耐熱の材料に貴金属をつけたもの。
自動車の排出ガス中に含まれる有毒ガス(一酸化炭素/CO、炭化水素/HC、窒素酸化物/NOx)を貴金属が酸化・還元して浄化しています。
COとHCの浄化は酸化反応、NOxの浄化は還元反応で行われます。
自動車触媒は、1000℃を超える高温環境であっても、安定して浄化反応が進むよう設計しなくてはなりません。
自動車触媒の中身を大きく2つに分けると、有毒ガスの浄化を行うポイントになる貴金属(白金/Pt、パラジウム/Pd、ロジウム/Rh)と、貴金属の足場になる材料(担体)に分けられます。
担体は、ジルコニウム(Zr)や、セリウム(Ce)などの複合酸化物からできており、耐熱性を上げたり、貴金属のシンタリング(焼結)を抑制するなどの目的に合った副成分が添加されています。
自動車触媒の開発は、排出ガスの雰囲気によって方向性が異なります。排出ガスの雰囲気はエンジン制御に依存しているため、エンジンが変われば最適な触媒も変わってしまいます。
特に、近年普及しているアイドリングストップ車は、これまでの自動車とはエンジン制御が大きく変わっているため、アイドリングストップ車に適した触媒開発が求められています。
また、環境保全や枯渇資源の使用量低減という背景から、排出ガス規制値は年々厳しくなる一方で、貴金属の使用量低減も求められています。
従来の自動車は、一度エンジンをかけると、アクセルペダルを踏まなくても、エンジンは動いたままです。
この状態をアイドリングと言い、少しずつガソリンを消費しています。一方、近年普及が進んでいるアイドリングストップ車は、赤信号などで一定時間止まると、エンジンも停止し、再び走行するためにアクセルを踏むとエンジンが再始動します。
アイドリングストップ車は、この再始動時にNOxが排出してしまいます。(図1)
アイドリングストップ車で再始動時にNOxが排出されてしまうのは、エンジン制御の違いによって触媒に流れ込むガスの雰囲気が変わるためです。
信号待ちの間、従来車はアイドリング状態のため、システム内のガス雰囲気が保たれ、触媒内の貴金属が活性状態であるのに対して、アイドリングストップ車は、エンジンが停止するため、空気が流れ込み貴金属が不活性な酸化物になってしまいます。(図2)
この状態のままエンジンが再始動し、排出ガスが流れ込むとNOxの排出が起こってしまいます。
自動車触媒に使われている材料(担体)は,ジルコニウム(Zr)酸化物に、酸化セリウム(CeO2)や、酸化ランタン(La2O3)などの元素が添加されています。担体に貴金属を担持(付着)して、有毒ガスの浄化を行っていますが、担体の組成によって貴金属の性質が変わってきます。
従来の触媒開発では、貴金属の劣化抑制というコンセプトを中心に取り組んでおり、Zr酸化物に、耐熱性が向上するような元素を添加し、足場を安定化することで貴金属の劣化を防ぐのが目的でした。
当社では、貴金属の劣化抑制ではなく、足場である担体の性質を変えることで触媒の浄化性能を向上させられないか?という視点から開発をおこないました。
NOx を浄化するには、NOx を還元する還元剤が必要になります。
しかし、アイドリングストップ中の触媒は、酸化雰囲気になっているため、再始動してすぐに還元ガスが触媒に流入しても浄化は間に合いません。「NOxを浄化するのと同時に、NOx を還元する還元剤をつくりだせないか」と考えて、開発に取り組みました。
自動車排ガス中において、NOxの浄化反応は、同じ有毒ガスである炭化水素(HC)や、一酸化炭素(CO)による還元反応と、水素(H2)による還元反応が起こっています。私たちは、最も還元力の高いH2に着目し、H2を生成する反応を促進できる添加元素はないかと考えました。
様々な元素添加により促進される素反応を比較し、目的の効果を得られる元素を見出して材料に添加。
その材料を使用した触媒で車両評価を行いました。
※素反応とは、化学反応を構成する個々の基本的な反応。
アイドリングストップ後の再始動時排出ガス量を、従来の触媒と、再始動NOx 排出抑制材料(SRR-MIX) を使用した触媒を、車両評価にて比較した結果、再始動NOx 排出抑制材料(SRR-MIX) を使った触媒は、再始動NOxの排出を抑制できることがわかりました。また、トータルNOx排出量も35%低減できました。(図3,4)
排出ガス規制は、世界各国でこれまで以上に厳しくなっていくでしょう。
さらに自動車の種類も、ハイブリッドカー(HV)や、ガソリンと電気を組み合わせたプラグインハイブリッドカー(PHV)などが普及していくと予想されています。
今後、自動車触媒が置かれる環境が大きく変わることが想定される中で、これまで培った技術をもとに新しい材料を開発し続ける必要があります。今後は、SRR-MIXをさらに詳細に解析し、その分析結果を応用した新しい材料開発に繋げていきます。
※「SRR-MIX」は技術名称であり、商品名称ではございません。